じゃあなんでキスしたんですか?

 
こんな感覚は、はじめてだ。

「あれーさっきから全然ごはんが進んでないぞぉ」
 
妹の声に皿を見下ろす。

大好きな沖漬けパスタなのに、半分食べただけでなんだかお腹がいっぱいだ。

「冷蔵庫に入れておいてくれる? あとで食べるから」
 
フォークを置いて席を立つと、マイは不思議そうに顔を上げた。

「昨日寝てないし、もうひと眠りするね」
 
麦茶を一口飲んで、わたしは部屋に引き返した。
 
ベッドに飛び込むと、自然とため息がこぼれる。
 
昨日から、森崎さんのことばかり考えてる。
 
酔っぱらっていたとはいえ、あの低い声で「かわいい」と言われて、力強い腕に引き寄せられて……キスを、されたのだ。
 



でも、それを覚えているのは、わたしだけだった。




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