じゃあなんでキスしたんですか?
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結局終電を逃してしまい、タクシー代も持ち合わせていなかったわたしは、帰るに帰れず、森崎さんが眠るベッドの脇で一晩うずくまっていた。
幸か不幸か眠気は一向に襲ってこず、森崎さんが目を覚ますまで、絨毯に座り込んだまま彼の寝顔を見ていた。
寝室の窓が白んで、部屋の中を浮かび上がらせたとき、不意に森崎さんはまぶたを開けた。
寝ぼけた様子で上半身を起こし、大きなあくびをして、それから目が合った。
叫び声こそ上げなかったものの、彼の驚きぶりはすさまじかった。
切れ長の目をかっと見開き、居場所を確認するようにあたりを見回し、自分の恰好を見下ろし、それから幽霊でも見るような目でわたしに視線を留めた。
「な、なんで小野田がここに」
震える声で、そう言ったのだ。