じゃあなんでキスしたんですか?
「覚えてないんですか?」と尋ねるわたしを見返して、森崎さんは記憶をたどるように頭をかかえた。
「居酒屋で、みんなで飲んでて」
「わたしが間違えてアルコール飲ませちゃったんです」
申し訳なく思いながら伝えると、課長は「ああ」と悔やむような声を漏らした。
「そうだったのか。俺は少しでも酒が入ると記憶が飛ぶんだ」
「ごめんなさい、知らなくて……」
「いや。というか……その」
ベッドで胡坐をかくように座ったまま、森崎さんが気まずそうに視線を逸らす。
わたしが用意しておいたサイドボードの水に気づいてグラスを手に取り、言いづらそうにつぶやく。
「小野田に……その、何かしなかったか?」
怯えたような目つきは、わたしをほんの少し傷つけた。
「すまない。何も覚えてないんだ」