じゃあなんでキスしたんですか?
呆れられてしまっただろうか。
広報課にきてまだ一週間だけれど、どうも失敗ばかりでうまく部署に馴染めていない気がする。
異動したばかりだから、できなかったり知らなかったりするのも当然だけど、気持ちは妙に焦っていた。
森崎課長に、仕事ができない部下だと思われたくない。
「伝わってない、のかなぁ」
外商部のエースを思い出しながら、給湯室から拝借してきた雑巾で廊下の汚れを拭き取っていく。
確かに、わたしは桐谷さんの都合なんて、少しも考えていなかった。ろくに説明もせず、押し付けるようにインタビューの依頼をしていたかもしれない。
ただ顔がいいだけの口の悪い人間だ、と決め付けていたわたしの思考が、相手にも伝わっていたのだとしたら。
「なにやってんのよ」
華奢なヒールが、目の前でカツンと床を踏み鳴らす。
視線を上げると広報課の先輩、大橋瑞穂(おおはしみずほ)さんがしかめ面でわたしを見下ろしていた。
流行の春色に色づいた唇が、不機嫌そうにゆがむ。