じゃあなんでキスしたんですか?
「姿が見えないと思ってたら、清掃員にでも鞍替えしたわけ?」
「あ、いえ、これは」
「ていうか、こんなところで油売ってる暇なんてあるの? 桐谷のインタビューはとれたんでしょうね?」
矢継ぎ早の質問に口ごもる。
わたしの反応を見て、大橋先輩がきれいに整えられた眉を中央に寄せた。くっきりと刻まれた眉間の皺に、反射的に肩を縮める。
「ちょっと、しっかりしてよ! あんたが失敗したら前任のわたしの責任になるじゃない!」
「す、すみません」
「本当に、なんであんたみたいのがうちの課に呼ばれたのかしら」
納得がいかないというふうに鼻を鳴らして、尖ったつま先を床に打ち付ける。カツカツと高圧的な音を反響させて、タイトスカートから伸びた足が遠ざかっていく。
「社内報制作より廊下磨きのほうがよっぽど合ってるんじゃないの」
エレベーターに乗り込む大橋さんの後に、切れ味の鋭い捨て台詞がこぼれて、白い廊下を灰色に汚していった。