じゃあなんでキスしたんですか?

 
結論から言うと、わたしの尾行はうまくいった。
 
食事を終えて出てきたふたりを、今度は見失わないようにしっかりと視界に入れて、帰りのエレベーターでも顔を見られることはなく、最初と同じ新幹線の改札口までやってきたのは夕方の六時前だった。
 
終始にこやかな笑顔を見せていた女性が、手を振って改札の奥に消えていく。その姿を見送ると、森崎さんは駅の出口に向かって歩き出した。
 
チャンスだ。
 
追いかけて、後ろから「偶然ですね」と声をかけるのだ。
 
しかし森崎さんの足は驚くほど早かった。歩いているはずなのに、人の波を追い越してずんずん進んでいってしまう。一歩の歩幅があきれるくらい大きいのだ。
 
さっきまではお母さんがいたからゆっくりだったのか。
 
迂闊だった。
 
階段を上り、陰りはじめた空の下に出る。

「も、森崎さん!」
 
数メートル先の背中に声をかけたとき、「おい」と肩をつかまれた。

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