じゃあなんでキスしたんですか?
驚いて振り返ると、見知らぬ男性が立っていた。
彼はわたしの右肩をつかんだまま、不機嫌そうに唇を曲げる。
「なんでムシすんだよっ」
「へ……?」
ぐっと正面を向かされ、わたしはあわてた。
「あ、あの、どちらさまですか?」
「はぁん? なにふざけたこと言ってんだよ。メッセージも電話もシカトしやがって。どういうつもりだよ!」
ひどく腹を立てている様子の彼はおそらく年下だ。
耳にかかる髪は沈んでいく太陽と同じ、明るいオレンジ色。こんがりと焼けた褐色の肌に白いシャツを着て、太い首に若さがにじんだ革のチョーカーを巻いている。
あっと思った。
「もしかして、ユウくん」
「あぁ?」
喉を裂いたような声に、うろたえながら説明する。
「わ、わたし、マイじゃないよ。姉のほう。ミヤコです」
「姉ぇ?」
「そう。一度会ったじゃない。部屋の玄関で」
彼の眉間の皺が、いっそう深くなる。