じゃあなんでキスしたんですか?


「嘘つくなよ」

「嘘じゃないよ! ほら、よく見て。髪型も服装のタイプも違うでしょ?」
 
わたしは帽子と伊達メガネを外した。通行人が、立ち止まったわたしたちを避けるようにして通り過ぎていく。
 
両手を広げてみせるわたしの、頭からつま先までをじろりと眺め、彼は憎々しそうにつぶやく。

「……じゃあ、マイはどこいんだよ。今日は都心駅に用があるからっつってたんだぞ」

「知らないよ。マイちゃんは今日――」

『友達の家に行くことになってるからぁ』
 
昨夜の言葉を思い出し、わたしは口をつぐんだ。だらだらと嫌な汗がこめかみを流れていく。
 
まさか……友達って、別の男の子のことなんじゃ。

「あ、あの……とにかくわたしは関係ないから、離して」
 
言った瞬間、食い込むような力で肩をつかまれ、ぞっとした。

「ちっ、もうどっちだっていーや。来いよ」

「えっ、ちょ」
 
手首を引っ張られ、つんのめりそうになりながら足を踏み出す。

「ど、どこ行くの!」

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