じゃあなんでキスしたんですか?


株式会社ブルースマートは、全国に六十店舗の生活雑貨専門店を展開している小売会社だ。

従業員は二千五百人を超えるけれど、その大半は各店舗に勤務していて、この八階建ての本社ビルに勤める人間は三百人に満たない。
 
新入社員のほとんどは研修期間を終えると各地の店舗に配属され、それぞれ担当の売り場に立って販売や接客を一から学んでいく。
 
店舗に勤める社員はいずれ売場主任になり、フロア管理者になり、うまくいけば店舗の最高責任者たる店舗マネージャーへと階段を上っていける。

さらに能力が認められれば本社に異動して全社的な管理や企画に携わることになる。
 
売場から本社異動まで早くても十年はかかるといわれているなかで、六年でそれを果たした外商部の桐谷統吾は、やっぱり逸材なのかもしれない。
 

雑巾を洗って干したあと、わたしは廊下から入ってすぐの総務部のスペースを通り過ぎ、窓寄りの経営企画部へと足を向けた。
 
広報課のある七階のフロアには総務部と経営企画部のふたつの部署が入っていて、それぞれ二十人ほどで構成されている。わたしが所属するのは経営企画部の広報課、編集室だ。

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