じゃあなんでキスしたんですか?
きつくつかまれたところから、ぞわぞわと悪寒が広がっていく。
「いいから」
抗う気さえ奪い取るような力でわたしを引きずり、交差点を渡っていく。
周囲の視線を感じるけれど、声をかけてくる人はいなかった。ただの痴話喧嘩だと思われてるのかもしれない。
「待ってってば! わたしは本当にマイじゃないの!」
「うっせーな! いいよもう、どうせ同じ顔なんだから」
「え、なにそれ……」
ずるずると引っ張られてビルのあいだを抜けていくと、怪しい看板がいくつもぶら下がった、いかがわしい通りに入る。
「ちょ……なに考えてるの」
嫌な予感が、額をかすめていく。
「あーもうあんま金ないけど、ここでいいや」
ご休憩いくらと書かれた塀の前で立ち止まると、建物全体を見回して、わたしを振り返る。
「ほら、行くぞ」