じゃあなんでキスしたんですか?
「なななに言ってんの! やだ! 離して!」
「うっせーな。どうせ同じ顔なんだからいいじゃん」
「いいわけないでしょ!」
「ぎゃーぎゃーうるせえな。ここ一ヶ月ずっと拒否られて、こっちはもうブチ切れ寸前なんだよ!」
そんなのわたしに関係ない!
叫びたくても叫べなかった。
彼はもしかするとアルコールを飲んでいるのかもしれない。目が据わり、おそろしい形相になっている。
「や、やだったら、離して」
声が上擦る。
筋の張った腕と、今にも暴走しそうな力の強さに、からだが震えだして止まらない。
得体の知れない猛獣にいまにも飛びかかられそうな恐怖に、足がすくむ。
「行くぞっつってんだよっ」
「や――」
相手への配慮なんて微塵も感じられない強さで、引きずられたとき。
「おい」
横から伸びてきた手が、褐色の腕を払いのけた。
わたしの前に、広い背中が立ちふさがる。
「警察、呼ぶぞ」
牽制するようにスマホを掲げる彼の、低く艶のある声に、わたしは目を見張った。