じゃあなんでキスしたんですか?
指先からはじまったちいさな震えは、感電するように皮膚をつたってからだを侵食していく。
森崎さんに迷惑をかけたくないのに、両手で持ったカップがカタカタ震えてしまった。
「大丈夫か?」
心配そうな声が聞こえて、わたしは目を閉じた。
すうっと息を吸い込んで、肺のなかのこわばった空気を吐き出す。
「大丈夫、です」
振り返ると、藍色に染まった景色のなかに引き締まった顔が浮かんでいた。
陽はもうとっくに落ちて、公園を囲む木々はすべて無機質なシルエットに変わっている。
「ありがとうございました。もう平気です」
わたしは立ち上がった。ベンチをはさんで森崎さんに向き直り、そのちいさな顔を見つめる。
会社で見るような無表情ではなかった。
わたしを、とても気にかけてくれている。
それが分かっただけで、今日はもう十分だ。
「帰ります」
頬を強引に持ち上げて、わたしは笑った。
その瞬間、伸びてきた手が、カップを持ったわたしの両手を包んだ。あたたかくて湿った体温が、一気に胸に迫る。
「震えてるぞ」