じゃあなんでキスしたんですか?

 
ふいに涙がこぼれそうになって、うつむいた。森崎さんの手からつたわるぬくもりに、声まで震える。

「す、すみません」
 
同じ、男性の手なのに。
 
さっきとはまるで違う。
 
触れられた一瞬で、気持ちが一気にほどけるのが分かった。
 
固くこわばっていたからだまで、溶かされていくみたいだ。
 
抱きつきたい衝動を懸命にこらえながら、じっと森崎さんの熱を感じていると。
 
わたしが泣いていると思ったのかもしれない。

「家まで送ってく」
 
優しい声だった。

「さっきの奴がまだ近くにいるかもしれないから」
 
そう言うと、大きな手でわたしの頭を撫でた。 
 


お盆を過ぎて、夜風にはどことなく秋の気配がまじっている。
 
最寄り駅から徒歩十五分の家路をたどりながら、つながった手に意識が集中した。
 
わたしがあまりにも頼りなくて見かねたのか、森崎さんは公園を出てからずっとわたしの右手を握っている。
 
大通りを歩いているときも、電車のなかでも、改札を抜けるときでさえ。
 
黙っていると心配させてしまいそうで、わたしは無理に笑いながらひたすらしゃべった。他愛のない、愚にもつかない話ばかり。
 
そうやってなにか話をしていないと、手のぬくもりに勘違いをしてしまいそうだった。

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