じゃあなんでキスしたんですか?


「そういえば森崎さん、わたしの採用面接のとき、その場にいらっしゃったんですね」
 
話のネタをさがして開けた記憶の引き出しに、総務部部長の温和な顔が笑っている。

「わたし、全然覚えてなくて。あの面接の雰囲気にいっぱいいっぱいだったから」
 
それまで「ああ」とか「うん」とかしか答えなかった森崎さんが、ふいに相好をくずした。

「覚えてる。あんまりガッチガチで、こっちまで緊張したんだよ」
 
あの年はじめて面接官をやったのだと言って、彼は笑った。
 
森崎さんの微笑は魔法だ。
 
見るだけで、驚くほど幸せな気持ちになる。

「それでわたしのこと、覚えててくれたんですね」

「いや、緊張してるのはほかの学生も一緒だったけど、小野田は特に……なんていうか、元気がよかったから」
 
切れ長の目が、やさしく細まる。

「楽しい会社にしたいですって、目をきらきらさせててさ」
 
頬が、燃えた。
 
恥ずかしい過去を覚えられていたことだけじゃない。
 
苦笑している森崎さんの姿に、胸の高揚が止まらない。
 
それまで話を途切れさせないように頑張ってきたのに、何も言えなくなってしまった。
 
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