じゃあなんでキスしたんですか?
沈黙と連れ立つように、暗い歩道をふたりで歩く。
やがて等間隔に立つ街灯がタイル張りの二階建てアパートを照らし出し、わたしは足を止めた。
それに気づいた森崎さんが、アパートを見上げる。
「ここか?」
彼の目を見られず、無言のままうなずいた。
いま口を開けたら、きっと言葉にしてしまう。
コップいっぱいに満ちた感情は、いまにもこぼれそうなのだ。
「そうか。じゃあ」
つながっていた手が離れて、わたしの頭に触れる。
骨ばった大きな手はやっぱりやさしくて、もう限界だった。
「おやすみ」
低い声で言って、大きな背中を見せる。
遠ざかろうとする彼のジャケットを、とっさにつかんだ。