じゃあなんでキスしたんですか?
広報課には森崎課長とふたりの先輩がいて、デスクで同じ島を作っているけれど、先輩たちが社外に向けて情報発信をしているのに対して、わたしだけ社内向けの活動を行っている。というか、行うことになる。
わたしの仕事は、社長を含めた全従業員に対して発信される、社内報の制作だ。
ブルースマートの社内報は月に一度、社内のイントラネットを介してウェブ版が公開される。
編集室といっても実際に部屋があるわけではない。
わたしは自分のデスクまでたどり着くとスリープモードに入っていたパソコンを立ち上げた。モニターの向こうに森崎課長のきれいにセットされた短い黒髪が見える。
広報課の編集室を構成する人員はわたしと、責任者である森崎課長のふたりだけだ。
課長は編集室長という立場でもある。
課長がすこし身じろぎした拍子に、背中合わせのモニターから真剣な表情がのぞいた。
精悍な顔つきの中でも切れ長の目は際立って目を引くけれど、ほんの少し垂れ気味のせいか引き締まった課長の風貌にどこか甘い印象を残している。
ぼんやりしていると、背後からわざとらしい舌打ちが聞こえて、わたしは背筋を伸ばした。
どこかからか戻ってきた大橋さんがとなりの席について、ノート型のパソコンを操作しながら、ぼうっとするな、と睨みをきかせてくる。