じゃあなんでキスしたんですか?
*
『小野田の気持ちには、応えられない』
わたしの告白に対する森崎さんの答えは、あっけないものだった。
『聞かなかったことにするから』
すぐそばの街灯と、遠くの月と、タイル張りのアパートに見下ろされながら、彼は顔から表情を消した。
『明日からの仕事に、差し支えることがないように』
そう言って去っていく背中はとても大きいのに、わたしを受け入れてはくれなかった。
やさしい笑みや仕草を見せておいて、わたしがその胸に飛び込もうとしたとたん、手のひらを返すようにそっけなくなる。
戸惑うばかりだ。
森崎さんが何を考えているのかわからない。
その気がないのなら、一貫して冷たくしてくれればよかったのに。
わたしが傷ついていても、放っておいてくれればよかったのに。