じゃあなんでキスしたんですか?

 
引っかかっているのは、夏の夜の甘い記憶だ。
 
パソコン画面に向けていた目を、そっと動かす。
 
ずっと見ないようにしていた向こう側の景色を、見る。
 
仕事に集中している森崎さん顔は、ささいな変化すら見せず、本当に機械になってしまったみたいに表情がない。
 
わたしの告白なんて、気にも留めていないといった様子で、肺の奥が痛んだ。
 
怒りにも似た戸惑いが、からだの内側であばれまわっている。
 
森崎さんは、仕事が何より大事で、わたしのことなんて、別に好きじゃないってことですよね。
 
それなら、それでもいいんです。
 
でも、納得いかないんです。
 


わたしのことをなんとも思っていない……。
 


じゃあ、なんで、キスしたんですか――――



 
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