じゃあなんでキスしたんですか?

告白をしたわたしが森崎さんからもらった言葉は、気持ちを反映しないものばかりだ。
 

――小野田の気持ちには応えられない。
 
――仕事に差し支えることがないように。

 
ちゃんとした理由を告げられず、あまつさえ告白自体なかったことにされたのだ。
 
だからわたしはどうしても吹っ切れない。
 
肝心の森崎さんが、何を思っているのか、まったく伝わってこないから。
 
どうせ断るのなら「そういう対象には見られない」とか、「年下には興味がない」とか、わたしを諦めさせるだけの理由がほしかった。

「おい、聞いてんのか?」
 
暗く濁った視界で、桐谷さんだけはいつものように表情豊かだ。
 
ふいに涙がこみあげた。

「……わからないんです」

「げっ」

「本当に、わからない」

「な、泣くなバカ」
 
手元に置いてあったおしぼりを、押し付けるようにして渡してくる。
 
あわてた様子で店員にお茶を頼み、「今日はあんま飲まないほうがいいんじゃねーの」とわたしのグラスを取り上げようとする。

「大丈夫ですから」
 
洟をすすって、涙をぬぐうと、桐谷さんはあきらめたようにため息をついた。

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