じゃあなんでキスしたんですか?

 
それからわたしは彼に、森崎さんとのことを包み隠さず話した。
 
舌が滑らかになったのはお酒のせいもあるかもしれないけれど、それ以上に桐谷さんが聞き上手だったからだ。

「ふうん、なるほどね」
 
頬杖をつき、ひどく不機嫌そうな顔で言うと、彼は三杯目のハイボールを啜る。

「あの森崎さんがねぇ……へぇー」
 
わざとらしい口調に、ついむきになる。

「嘘じゃないですよ!」

「べつに疑ってるわけじゃねーよ」
 
ぷいと拗ねたように顔をそらして、近くの店員に空いた皿を片付けるように指示している。それから独り言を漏らした。

「ようやく飲みに応じたと思ったら、森崎さんかよ」

「はい?」

「いーや、こっちの話だ」
 
引きつったような笑みを浮かべ、背後の壁にもたれかかる。
 
新規の客を案内した店員が戻りがけにわたしたちのテーブルの皿を取り替えてくれた。気がつくと店内は満席で、店員の掛け声とお客の談笑が狭い空間を賑やかに満たしている。

「そんでおまえは、森崎さんが何考えてるか分かんないっつって泣いてるわけだ」

「言い方に刺がありますね……」

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