じゃあなんでキスしたんですか?

 
アルコールを取り込むうちに涙はとっくに乾いてしまっていた。不思議なことに、桐谷さんに話してしまうと驚くほど冷静に自分の状況を見ることができた。

「そんなの、本人に聞きゃあいいじゃねーか」

「無理ですよ。なかったことにされたのに、自分からまた蒸し返すなんて」
 
あの日の悲しみを思い出すのもつらいけれど、森崎さんにこれ以上嫌われたくないという気持ちが大きい。
 
と、桐谷さんが面倒そうに言う。

「だからぁ、飲ませるんだよ」

「え……?」

「アルコール、もう一回飲ませればいいじゃん。何よりも素直な気持ちを聞けるぞ」
 
どこか投げやりな口調で言って、鶏レバーの串を振り回す。
 
思いがけない提案にわたしは面食らった。

「で、でも……」

「ぐだぐだ言って飲んだくれてても、肝臓悪くするだけだぞ」
 
アルコールのせいでほんのり赤くなっている彼が、テーブル越しに腕を伸ばしてくる。頭を撫でられるのかと思って身構えたとたん、思いきりデコピンをされた。 



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