じゃあなんでキスしたんですか?
*
飲ませると言ったって。
そんな状況なんて、どうやって生まれるんだろう。
無人の喫煙ブースの脇にじっと佇んでいる自動販売機で、いつものブラックコーヒーのボタンを押す。
がたん、と吐き出される音を聞きながら、となりのカフェラテの缶を見やった。
人気商品でしょっちゅう売り切れているけれど、今日はまだ他のドリンクと同じようにランプを灯して購入者を待っている。
これをいつも好んで飲んでいる森崎さんは、意外と甘党なのかもしれない。
それとも、疲れた脳にその糖度がちょうどいいのだろうか。
そういえば、と暗い夜の公園を思い出した。
あの日、マイと間違えられてホテルに連れ込まれそうになったところを助けてくれた森崎さんは、カフェラテでもほかの甘い飲み物でもなく、ブラックのコーヒーを買ってきてくれたのだ。
あれは、たまたまだったんだろうか。
階段のドアを開けた瞬間、向こう側から来た人間にぶつかりそうになって、ちいさく悲鳴を上げた。
いつものくせでとっさに桐谷さんの顔を思い浮かべたわたしは、エースよりもさらに高い位置に顔を見つけて硬直した。