じゃあなんでキスしたんですか?

 
手から滑り落ちた缶コーヒーが、床に転がる。
 
長いからだを折ってそれを拾い上げると、森崎さんは何も言わずにわたしに差し出した。

「あ、ありがとう、ございま」
 
声がかすれる。
 
受け取ろうとして、わたしは動きを止めた。
 
そこにある指の長いごつごつした手は、ずっと形を変えないのに、どうして彼の心は見え隠れしてしまうんだろう。
 
まるかったり、欠けていたり、まるで雲を抱いた夜の月のように、雲間からのぞいた表情は予測がつかない。
 
触れたい、と瞬時に突き上げた衝動をこらえることができなかった。
 
缶を持ったままの森崎さんの手を、両手で包み込む。
 
いつかの逆みたいに。

「……どうしても、納得がいかないんです」
 
わたしの言葉には答えず、彼は冷たい顔で、温度のない声をこぼす。

「離してくれ」

「だって森崎さん……わたしに」

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