じゃあなんでキスしたんですか?

 
強引に手を振り払われ、言葉が途切れた。
 
わたしに缶コーヒーを押し付けると、森崎さんは横を通り過ぎようとする。

「気持ちを切り替えろ」
 
六階のエレベーターホールに出ようとする背中には、拒絶のオーラが立ち込めている。 

「もう忘れろ」

「でもっ」
 
ジャケットの裾に手を伸ばした瞬間、強い力で払いのけられた。

「いい加減にしないか!」
 
鈍い音を響かせて、ふたたび缶コーヒーが床に転がる。
 
唖然としているわたしを振り返ることなく、森崎さんは長い足を踏みだした。
 
目の前で、階段とホールをつなぐ扉が閉じる。
 
薄暗い階段に差し込んでいた光が遮られる。
 
まるでわたしと森崎さんの関係を完全に断ち切るように、扉は重い音をあたりに響かせた。


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