じゃあなんでキスしたんですか?

 
 *

目を覚ますと昼近くになっていた。いつのまに眠ってしまったのか、記憶はぼんやりとしていて曖昧だ。
 
枕元をさぐってケータイを探すけれど、指先にはシーツの感触のほかは何も触れない。
 
枕から顔を上げると、頭に鈍い痛みが走った。ベッドの上に座り込んで、ぼんやりとあたりを見回す。
 
見慣れた自分の部屋は、いつもと変わらない顔でわたしを見つめている。
 
昨晩いつになく強いお酒を煽ったことを思い出して、「ああ」とあくびともため息ともつかない声をこぼした。
 
マイの姿はどこにもなかった。
 
土日休みのわたしに合わせるように大学の履修登録をしている妹は、週末になるといつも「ここに行こう、あそこに行こう」と声をかけてくる。
 
そんな妹の不在を不思議に思いながら顔を洗い、ひとりぶんのコーヒーを淹れた。
 
テレビの電源を入れて目に入ったのは、休日の昼にふさわしい、何も考えずに見られる緩いトークバラエティ番組だ。今日のゲストはスイーツ好きで有名な俳優らしい。
 
スタジオにおすすめ店のケーキが運ばれてきたのを見て、わたしは思い出した。

「あれ、そういえば今日……」
 
< 172 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop