じゃあなんでキスしたんですか?
画面を見つめたまま自然と肩が落ちた。
桐谷統吾を攻略するために、わたしは何をしなければならないのか。
視線の先で森崎課長の長い指が内線電話を取り上げる。
やさしくこぼれる甘い低音ボイスで、受話器が溶けてしまいそうに見える。
電話の相手が女性だったら、きっと否応なしにときめいているに違いない。
電話を終えて課長が席を立った。
つい目で追っていると、彼の大きな黒目と視線が合って、あわてて逸らした。
「ちょっと小野田さん、インタビュー枠どうするつもり? 桐谷はもう受けてくれないでしょ」
課長が通り過ぎたあとで、大橋さんのトーンの高い声がわたしを叩いた。
大学でメディア学を学び、入社してすぐ広報課に配属になった彼女は桐谷さんと同期で、彼のことを呼び捨てにしている。
「いえ、あの、まだ桐谷さんにお願いしようと思ってるんですけど」
「そんなの無理に決まってんじゃない。その様子じゃ一旦断られてるんでしょ? あいつ頑固で同期のあたしの頼みだって聞かないんだから。間に合わないわよ」
「でも、課長が」
「は?」
「いえ、なんでもないです」
高圧的な眉間の皺に、思わず目線を下げた。