じゃあなんでキスしたんですか?
「な、なによ」
「お願いします、大橋さん」
「ふざけないでよ、あんたが頼んだどころで、あの頑固男がうなずくわけないでしょ」
「それでも、もう一回だけ、お願いします」
頭を下げると、「あーもうっ」と苛立ったような声が聞こえた。
「記事に穴が空いてもあたしは知らないわよっ」
しかめっ面のままノートパソコンに向き直る大橋さんに「ありがとうございます」と言って、ちいさく息をついた。
さて、どうしよう。
顎を引くと、二十四年の人生を共にしてきた、わたしの大切なバストが見える。
一見平均よりもふっくらと見えるそれが、実は機能的なブラでサイズアップを図っているということに気づいた桐谷統吾は、やっぱりただものじゃない。
「いやいや、そうじゃなくて」
自分でツッコミを入れながら、ふてぶてしいエースの顔を思い浮かべる。
どうすればあの、口を開けばすべてが台無し、なエース様に引き受けてもらえるんだろう。
画面に映し出された過去のインタビュー記事のなかで、白い歯を見せて自身の仕事についてを語っている社員たちの写真が目を引く。
彼らはどうして、忙しい時間を割いて広報課の依頼を受けてくれたのだろう。