じゃあなんでキスしたんですか?
「そういえば森崎さん」
彼が呼んだ名前に、からだが固まる。
縦長の机の向こうに、ふたりの男性の姿が見えて、わたしは息をのんだ。
「昨日なんでチャイム押さなかったんすか?」
あまりにも突然すぎて、状況をすぐには把握できない。
桐谷さんが見せたかった面白いものって、森崎さんのことなの?
社内ナンバー1、2を争うような美形のふたりが対峙している姿にじっと見入っていると。
「俺があいつを家に連れ込むとこ、見てましたよね」
声を上げそうになった。
記憶を掘り起こして、あまりにも不可解だった桐谷さんの玄関での様子を思い出す。
昨日、アパートを飛び出してマンションに行ったわたしは、桐谷さんに促されるまま外の公園に向かい、途中で引き返し、彼の部屋に押し込まれたのだ。
あのとき、ドアの外に、森崎さんが――?
「邪魔が入んなかったんで、俺、いただいちゃいましたよ」
人を小ばかにするような口調は、染みついてしまった癖なのだろうか。
普段の桐谷さんは周囲の人に対してとても愛想がいい。女性に対してはもちろん、男性に対してだって丁寧な口調を使う。