じゃあなんでキスしたんですか?


周りからどう見られるかをとても気にしているから、身だしなみや言葉遣いにはとても気を遣っているのだ。
 
そんな彼が、森崎さんを挑発するように口元に皮肉な笑みを浮かべている。

「あいつの胸は実は上げ底なんすけどね」
 
ドアに頭をぶつけそうになった。
 
思わず自分の胸に手をやる。そういえばあの人はわたしのバストの秘密に気づいているのだった。
 
そして胸から連想して、よく考えたら彼の先の言葉の「いただいた」というのはつまり、男女のそういうことを意味しているのだと思い至る。
 

き・り・た・にぃ~!
 
さらりと暴露してくれたうえに、なにとんでもないことを言ってくれてるんだろうあの人!
 
冗談じゃない!
 
ドアを開けて踏み込みたい衝動をこらえながら、どうにか気持ちを落ち着ける。
 
桐谷さんはきっと、何かを企んでいるのだ。
 
むしろ企みもせずにあんなことを言っているのであれば、もう絶対許さない。絶交だ。
 
ドアに添えた手をふるふる震わせながら、なおもふたりの声に耳を傾けていると。

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