じゃあなんでキスしたんですか?
「結構、美味でしたよ、あいつ」
頬が燃えた。その瞬間、どん、と鈍い音が響く。
ドアの隙間にくぎ付けになる。
桐谷さんは壁にぴたりと背中をくっつけていた。胸倉をつかまれ、森崎さんに強く押し付けられてる。
ウソ――
「遊びなら、やめろ」
地を這うような低い声は、殺気立っていた。
桐谷さんをひどく冷たい目で睨みつけると、森崎さんはこちらに向かって長い足を踏み出す。
わたしはあわててドアを離れた。
左右を見回し、隠れられそうな場所を探す。そして間一髪、となりの会議室にからだをすべりこませた。
ドア越しに外の気配をうかがっていると、森崎さんの足音はエレベーターホールを突っ切り、階段の扉の向こうに消えた。
「うおーこえぇ」
となりの会議室に向かうと、桐谷さんは壁にもたれたまま、右手でネクタイを緩めていた。