じゃあなんでキスしたんですか?
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自分で、なんとかしなくちゃ。
あの桐谷さんが、何の得にもならないと知っていて、あんなにからだを張ってくれたのだ。
わたしがきちんとぶつかっていかなきゃ、彼に申し訳が立たない。
仕事を片付けて定時で会社を出ると、わたしは近くのコンビニで飲み物だけを買って張り込みの態勢に入った。
森崎さんを待ち伏せして、ごはんに誘うのだ。
断られることは目に見えてる。でも、そうなったら最後の手段を使えばいい。
もはや上品な作戦を選んでいる心理的余裕なんて、わたしにはない。
大通りをはさんで会社の反対側、生垣のコンクリートに腰を下ろして、会社の玄関先に目を注ぐ。
日暮れを迎え、あたりは薄暗い。これなら森崎さんが出てきても、すぐには見つからないはずだ。
バッグ越しに飲み物の缶の固さを感じながら、どれくらい待っていただろうか。
西の空から太陽の気配が消え去り、すっかり闇が降りたところで、長身の男性が自動ドアをくぐって出てきた。