じゃあなんでキスしたんですか?
「小野田? なんでここに」
「すみません、ちょっと聞きたいことがあって……待ってたんです」
森崎さんは無表情ではなかった。驚きの色がにじんだ瞳のなかに、なにか読み取れない感情を隠している。
「こんな暗い公園にひとりで? あぶないだろ」
「ごめんなさい」
「仕事のことなら明日会社で聞くから。帰りなさい。駅まで送るから」
話を聞いてくれようとはしないのに、駅まで送ると言う。
冷たいのか、やさしいのか、わからない。
「仕事の話じゃないんです」
森崎さんのあくのない顔に、わずかに険が走る。
きっと正攻法でいっても、彼は何も答えてくれないに違いない。
わたしは森崎さんに背中を向けた。バッグに入れていた缶のプルトップを急いで開け、首をかがめて口に含む。
「……小野田?」
不思議そうにわたしを見つめている森崎さんに、振り向きざま、飛びついた。