じゃあなんでキスしたんですか?
あっけにとられている彼の唇に、口を押し付ける。
両手で頬をつかみ、含んでいた液体を強引に流し込んだ。
骨の浮いた喉が、アルコールを嚥下して上下に動く。
「ごほっ、なん――」
驚いた顔をして、わたしを見下ろしていた彼の目が、眠たげに細まる。
まるで即効性の睡眠薬だ。
森崎さんが脱力する。
わたしは彼を受け止めて、そのままアスファルトの上に座り込んだ。
わたしの体格では森崎さんを動かすことはできないけれど、あの日と同じなら、彼は少し眠ったあとで起きるはずだ。
このあいだよりも飲ませたアルコールが少ないからか、森崎さんはわりとすぐに目を覚ました。それでもちゃんと酔っぱらっているようで、いつか見たのと同じ、邪気のない笑みを浮かべる。
あの日をなぞるようにして、わたしは彼を支えながらマンションのエントランスをくぐり、エレベーターをのぼった。
森崎と書かれた表札の前で、差し出された鍵を使って代わりに玄関を開錠する。
扉をくぐったとたん、彼が後ろから、わたしを抱きしめた。