じゃあなんでキスしたんですか?
「わたしも好きです、森崎さん」
顔を下ろし、唇を合わせる。
崩れてしまいそうな感触を、忘れてしまわないように。
ゆっくりと時間をかけて、彼の唇を味わう。
最後に、彼の鼻や、長いまつ毛や、肉の薄い頬を指先でなぞって、別れの言葉を口にした。
わたしの痕跡を一切残さないように、髪の毛一本でも落ちていることがないように。
まるで完全犯罪を企むようにあたりに目を配り、ゴミやその他のものをコンビニの袋に入れてバッグに押し込んだ。
そうしてわたしは、森崎さんの部屋をあとにした。