じゃあなんでキスしたんですか?
「話したいことがある」
わたしから手を離し、彼は思い詰めたように言った。
「俺のマンションに来てほしい」
「え……」
それはあまりにも突然のことばで、わたしは耳を疑った。
だって会社では仕事の話しかせず、無表情でわたしを寄せ付けないようにしていたのに、どうして急にマンションに呼ばれるのか。
「で、でも」
「頼む」
切羽詰まったように低い声を落としてわたしを見つめると、森崎さんは思い出したようにドアをくぐっていった。
頭の中で、今起きたことを整理しようとしたけれど、まるきりわけがわからない。
ただ、強くつかまれた肩の感触だけが、しばらくわたしの心を浮遊させていた。