じゃあなんでキスしたんですか?
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休日の午後、すっかり秋めいた空気にともなわれて、わたしは最寄り駅の階段をのぼった。
そわそわと落ち着かない気分で電車に揺られ、何度か降りたことのある駅で下車する。
階段を下りていくと、うろこ雲の空の下に見慣れた長身の男性が待っていた。
シャツとジーンズというラフな格好にもかかわらず、背の高さとスタイルがずば抜けているから、すれ違う女性がみんな目を輝かせて見入っていく。
この人はモテるんだろうなぁと改めて思った。
仕事にも真面目で、頼りがいがあって、少し冷たいところもあるけれど、人としても上司としても尊敬できる。
そんな相手から好きという言葉をもらえたわたしは、きっと誰よりも幸福だ。
たとえこれから何を告げられようとも、もう、森崎さんの心を煩わせたりしない。
マンションまでの道中、彼はひと言も口を利かなかった。
エントランスをくぐり、エレベーターをのぼり、森崎と書かれた表札の前で立ち止まる。
ぴったりと閉じられたドアを見つめながら、短いあいだにずいぶんここへ足を運んだな、と思いを馳せた。
最後に立ち去ったときは、もう二度とこの場所を訪れないと覚悟を決めたはずだった。