じゃあなんでキスしたんですか?
大きな背中が先に玄関をくぐる。とたんに、足がすくんだ。
話したいことってなんだろう。
森崎さんの背中越しに、廊下のフローリングが目に入る。片付けられてつやを放っているそれが、冷たい顔でわたしを睨んでいる気がする。
断りもなくわたしが家に入ったことに、森崎さんは嫌悪しているのかもしれない。
このあいだ口移しで無理やりお酒を飲ませたことを、責められるのかもしれない。
付き合えないのは仕方がないけれど、嫌われてしまうのは恐い。
玄関前で立ち尽くしているわたしに気づき、彼が低い声で言う。
「入って」
「あ、あの……わたし」
「頼むから」
眉間に寄った皺に、あれと思う。
さっきからずっとかたい顔をしている森崎さんだけれど、正面から見ると怒っているというよりも、戸惑っているように見える。
わたしは黙って玄関をくぐり、促されるまま靴を脱いだ。