じゃあなんでキスしたんですか?


「森崎さんて、実は甘いものが好きですよね」

「な、なんで分かるんだ」
 
何気ない言葉に過剰に反応している様子がおかしくて、つい笑ってしまった。

「いつも甘ったるいカフェラテ飲んでるじゃないですか」

「そういう小野田はいつもブラックのコーヒーだよな」
 
思わぬ言葉に、顔を上げる。
 
森崎さんはテーブル脇の絨毯にあぐらをかき、考え込むように窓の外を見ていた。

「森崎、さん?」

「小野田に、謝らないといけない」

「え……?」 
 
森崎さんはポケットから、携帯音楽プレーヤーのような物を取り出して、テーブルの上に置いた。細長い形状で、スマホよりも厚みがある。

「ここ最近ずっと、なんていうか、必要以上に冷たくしたかもしれない」
 
突然の謝罪にあっけにとられた。
 
苦しげな表情がいたたまれなくて、首を振る。

「いえ、会社での公私混同は避けるべきですし。森崎さんは正しいです」
 
好きだと告白してきた部下に、やさしく接する必要なんてない。
 
極力、彼の立場に身を置きながら考えたわたしのセリフを、森崎さんは「いや、そうじゃない」と否定した。

< 223 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop