じゃあなんでキスしたんですか?
「森崎さんて、実は甘いものが好きですよね」
「な、なんで分かるんだ」
何気ない言葉に過剰に反応している様子がおかしくて、つい笑ってしまった。
「いつも甘ったるいカフェラテ飲んでるじゃないですか」
「そういう小野田はいつもブラックのコーヒーだよな」
思わぬ言葉に、顔を上げる。
森崎さんはテーブル脇の絨毯にあぐらをかき、考え込むように窓の外を見ていた。
「森崎、さん?」
「小野田に、謝らないといけない」
「え……?」
森崎さんはポケットから、携帯音楽プレーヤーのような物を取り出して、テーブルの上に置いた。細長い形状で、スマホよりも厚みがある。
「ここ最近ずっと、なんていうか、必要以上に冷たくしたかもしれない」
突然の謝罪にあっけにとられた。
苦しげな表情がいたたまれなくて、首を振る。
「いえ、会社での公私混同は避けるべきですし。森崎さんは正しいです」
好きだと告白してきた部下に、やさしく接する必要なんてない。
極力、彼の立場に身を置きながら考えたわたしのセリフを、森崎さんは「いや、そうじゃない」と否定した。