じゃあなんでキスしたんですか?
「あ、小野田ちゃん、おつかれー。どうよ広報課は」
「お、おつかれっす」
「なにそのイカツイ挨拶」
横目で見ると、がちがちに固まっているわたしを見て、森崎さんが薄い頬をひくひくと引きつらせていた。
あれは絶対、笑いをこらえている顔だ。
「い、いえ。ちょっと決意表明というか」
無理に笑いながら、わたしは心の中で悲鳴を上げた。
森崎さんにこんなおちゃめな一面があるなんて想定外だ。
わたし、これから秘密の社内恋愛を乗り切れるだろうか。
自問自答しながらも、あきらめるつもりなんて毛頭ないけれど。
「行けるところまでいってやるさ」
わたしの力強いつぶやきに先輩が「は?」と顔をしかめる。
「いえ、わたし、頑張ろうと思ってます」
「はあ?」と眉根を寄せる先輩の後ろで、森崎さんの表情がほどけた気がした。
だって、どちらもあきらめたくない。
欲張りなわたしは。
恋も、仕事も、全力で――。
じゃあなんでキスしたんですか/
END