じゃあなんでキスしたんですか?
「まったく、回を追うごとに長文になるな」
疲れたようにため息をつくと、原稿をまとめてわたしのほうへ差し出した。
「増刊にして正解だったよ。社内報とはいえ、あんまり長すぎるんじゃ読む気も失せるしな」
四ヶ月に一度発表される社長メッセージは、その想いが深すぎるゆえにまとまりがなくなり、文字数は増加の一途をたどっている。
おまけに社長の使う言葉は小難しい専門用語が多くて、わたしはまだ半分くらいしか理解できない。
いまは課長とふたりで読み合わせをしているけれど、いずれはわたしひとりでこの作業をしなければならないらしい。
幸か不幸か、広報の仕事を含めて、学ばなければならない事柄は目の前に山積している。
「これで頼むな」
そう言うと、森崎さんは椅子を立った。
窓ガラスから染み込んで滞留していた冷たい空気が、彼の動きに合わせて微かに揺れる。
わたしに近づくことも、特別な視線を向けることもなく、大きな背中は迷う素振りも見せずにふたりきりの会議室を後にした。
音を立てて閉まる扉をしばらく見つめる。じわりと込み上げる感情に、あわてて首を振った。