じゃあなんでキスしたんですか?

 
付き合うようになってから二週間、街路樹が紅葉するとともにわたしの心は鮮やかに変化しているというのに、会社での森崎さんの態度はこれまでとなんら変わらない。
 
一度だけ、エレベーターでキスをされたことがあったけれど、あれ以来、社内でわたしに触れることは一切なかった。

 
篠沢部長からアドバイスをもらって、わたしたちは秘密の恋を貫くためにいくつかのルールを作ったのだ。
 

絶対に一緒に帰らないこと。
 
デートするならなるべく遠出するか、家の中で過ごすこと。 
 
原則として、社内では半径一メートル以内に近づかないこと。
 

たとえほかに誰もいない空間にふたりきりだったとしても、それが社内である限り、わたしたちは上司と部下に徹するのだ。
 
大切な関係を守るためなのだから、森崎さんの態度に寂しさをおぼえること自体が間違っている。
 
頭ではわかっていも、なかなか気持ちは切り替えられない。
 
< 245 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop