じゃあなんでキスしたんですか?
「あ、あの……」
どういう意味合いの表情なのかいまいち掴みきれず、声を上げた瞬間、
「今度の土曜、午後一時、北長塚駅前」
桐谷統吾がつまらなさそうに声を落とした。
「え?」
ぽかんと口を開けるわたしに、乙女の夢を体現化させたドSなエース様が衝撃的な言葉を放つ。
「デートだよ」
想像だにしていなかった展開に唖然として立ち尽くしていると、ふたたび皮肉めいた笑みがこぼれた。
「俺のことが知りたいんだろ?」
「え、いや、決してそういうことでは……」
即座に答えると、彼はすこし面倒そうに煙を吐き出した。
「デートのあとでインタビューに答えてやるっつってんだよ」
「え……」
「文句あんのかよ」
正面からずいと身体を寄せられて、一歩あとずさる。
「い、いえ……」
さっきより近づいた苦みのある香りに戸惑っていると、桐谷さんは「ふん」と鼻を鳴らしてわたしから離れた。
煙草の火をもみ消しながら思い出したように口にする。
「そういやおまえ、名前は?」