じゃあなんでキスしたんですか?


「マイちゃん、好きでもない人と、チューしちゃダメだよ!」

「えー? 好きだよー。だって友達だし」
 
口をぱくぱくさせているわたしに向かって、妹はなんでもないように言う。

「ユウ君カッコいいし、好きだもん」

「だ、だめだめだめ、それは好きとは違うでしょ! キスとかしていいのはもっとこう、心が全部で好き! みたいな相手とじゃなきゃ!」

「えーそれってどんな感じ?」
 
不思議そうに首をかしげる彼女は、わたしと同じ高さにある大きな瞳でまっすぐ見つめてくる。

真っ黒に澄んだこの目で見つめられたら、男の人はあっけなく陥落するはずだ。姉のわたしでさえ、吸い込まれそうになるのだから。

「だからね、ええと……」

「もういいから、ごはんにしよーよ。お腹すいてるでしょ?」
 
わたしの手を取ってダイニングに向かう妹の背中で、腰までの髪がやわらかく揺れる。
 
どこまで伸ばしても直毛なわたしと違って、妹の髪は肩下から緩やかな曲線を描いている。

顔立ちも背格好もよく似ていると言われるわたしたちのはっきりとした違いは、この髪質と、正反対ともいえる性格だけかもしれない。

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