じゃあなんでキスしたんですか?
六畳のわたしの部屋にベッドをふたつ置くことはできないため、マイはいつもリビングのソファベッドで寝ている。
敷かれた毛布はついさっきまで寝ていましたというように乱れていて、その足元には……。
「ミヤちゃんどうしたの? ぼうっと突っ立って」
料理が盛られた皿を手に、妹が後ろから首をのぞかせる。
「マ、ママママイちゃん」
言葉になっていない姉の視線を追って、妹は「ああ」とローテーブルにお皿を置いてから、ひょいとそれを拾い上げた。
手のひらにすっぽり収まってしまうちいさな正方形の包装フィルムは、ぎざぎざの線に沿って切り込みが入っていて、中身は空っぽだ。
「ユウ君てば、捨て忘れたみたい」
何食わぬ顔でゴミ箱に放る妹を見て、唖然とする。
「マ、マイちゃん……」
「あ、安心して。ミヤちゃんのベッドは使ってないから」
ふんわりと笑う妹の表情には、悪びれた様子がない。
わたしの口からは声にならない叫びが漏れて、ホタルイカに和えた酢味噌の匂いと、それとは違う別の甘酸っぱい何かが漂うリビングルームを駆け抜けた。