じゃあなんでキスしたんですか?

 
同じ両親から生まれたはずなのに、わたしたちはどうしてこうも正反対なのだろうと思う。

おっとりとしていて、良くも悪くも性の垣根がない妹と違って、わたしは初対面の人間に『無駄な動きが多い』と言われるくらい慌ただしいし、中学から大学まで女子校だったせいか恋愛をしたこともない。
 
心が全部で好きみたいな――なんて妹に偉そうなことを言っておいて、自分だって一度も男の人を好きになったことがないのだ。

「ねえミヤちゃん、会社ってカッコいい人たくさんいるんでしょ?」
 
いつの間にかアルコールの缶を運んできていたマイが、グラスに小麦色の液体を注ぎいれる。

「スーツ姿ってかっこいいよね。女子社員の王子様とか、いないの?」

「口を開くとすべてが台無しになるエース様ならいるよ」
 
それからエロい声と評判の若手課長も。
 
さっきまで男を連れ込んでいた妹には、なまめかしく感じられて森崎課長のことまでは言えなかった。

「えー王子様、本当にいるんだ? 会ってみたぁい」

「だ、だめだめ!」
 
マイみたいにふわふわしてる子なんて、あっという間に丸め込まれて、都合のいいように扱われてしまうに違いない。

「えーどうしてぇ」と不満そうな顔をしてから、マイは「あ、そうだ」と立ち上がった。

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