じゃあなんでキスしたんですか?

 
男の人を感じさせる、彼の大きな手のひらの感触に思い出したのは、昨夜の自分の部屋だ。
 
妹とためらうことなくキスをしていた男の子と、乱れたソファベッドと、使用済みの避妊具のパッケージ。
 
はっとして目を上げると、眉間にしわを刻んだひどく不機嫌そうな顔があった。

「なんだおまえ、その態度は」

「い、いえ、すみません」
 
斜め上から鋭い視線を降らせ、桐谷さんがわたしを見る。整った顔に生じた小さな歪みに、いまさらながら焦りがひろがる。
 
腕を振り払ったせいで、彼を怒らせてしまったのだろうか。
 
もしかして、これは本当にデートなの?
 
じわじわと、インクがにじむようにして頬が熱くなっていく。

「おまえ、何おどおどしてんだよ」

「えっ、いや、別に……」
 
目を逸らすわたしの視界に強引に入り込むと、彼は形よく隆起した鼻を触れそうな距離にまで突き出した。

「あん? このあいだの威勢はどうした」

「い、威勢なんてそんな、めっそうもない」
 
さらに視線を逸らそうとした瞬間、ふたたび腕を掴まれて、悲鳴をあげそうになった。

「今度ふざけた真似したら、路地裏連れ込むからな」

「ろっ、路地裏?」
 
ぐいっと引っ張られて足を踏み出す。

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