じゃあなんでキスしたんですか?


「桐谷さん!」
 
階段の踊り場でうつぶせに倒れこんだわたしの下に、彼の姿があった。

とっさに受け止めてくれようとしたのか、わたしの腰にはがっしりと両腕が回っている。

「だ、大丈夫ですか!」

「いっ……てぇなーもうっ」
 
胸で押しつぶしていた顔からくぐもった声が届き、あわてて脇にどく。

彼は苦痛に眉を歪ませながらゆっくり身体を起こした。

「あ、あの、怪我とか」

「全力でコケてんじゃねーよバカ! 子どもか!」
 
怒鳴り声に首をすくめる。

「ご、ごめんなさい」

「よく知んねぇけど、とりあえずおまえは無駄な言動が多い! そして落ち着きがない!」
 
ほんの数分前に会ったばかりの人間にそんなことを言われる筋合いはない、と言いたいところだけど、彼の言葉は間違っていなかった。

確かにわたしは昔から無駄な動きが多いし、話が要領を得ないと周りから注意されてきた。

「しかも、そんな靴履いて走ったら普通にあぶないだろうが!」
 
親の敵のようにわたしの足元を見て「おまけに似合ってない」と吐き捨てる。
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