じゃあなんでキスしたんですか?
「俺たちが目指してたのは、来るたびに新たな発見がある店作りだ。そしてそれを、あいつらひとりひとりが創意工夫してつくりあげた」
桐谷さんは、もこもこの羊が描かれた広告ポップを人差し指でつついた。
バネで固定されたそれが、びよんびよんと不規則に揺らぐ。
店内をぐるりと見渡せば、ここかしこに手作りの案内ポスターや装飾がほどこされている。
コンセプトカラーを邪魔しないやさしい色合いのポスターではヘビをモチーフにしたかわいらしいキャラクターがウインクをしている。
“キタナガ君”とキャプションがついたそれは、驚いたことに、この店舗のスタッフが考え出したオリジナルのキャラクターらしい。
真っ白な壁に貼り付き、あるいは天井からぶら下がり、ときには床の上でお客さんに踏まれながら、キタナガ君はそれぞれの商品の良さをわかりやすくアピールしている。
「俺は特別なことはなにもやってない」
モスグリーンの戦闘服を身につけた頼もしい彼らを見渡して、エースは薄く笑った。
「魔法なんか、使ってねえよ」