じゃあなんでキスしたんですか?
*
――そう言って笑う桐谷社員の目には、未来を見据えた強い意志が光っていた。
ラックに並ぶ商品はもちろん大切だ。
けれどそれ以上に売り場を輝かせるのは、商品を提供する人間側の魅力にかかっている。
彼は従業員ひとりひとりの能力を認め、引き出し、体内をめぐる血液のように活性化させることで、北長塚店をひとつの命として育てあげた――
「なんなのよこれ!」
モニター画面を指差し、大橋さんが頬を引きつらせる。
眉間に刻まれたマリアナ海溝ばりの溝に、背筋がぞっとする。
「社員インタビューに、あんたのわけのわからない見解なんて必要ないでしょ!」
「で、でも、桐谷さんの確認も編集長の最終チェックも入ってますし」
「校正通りゃいいって問題じゃないのよ!」
ばん、とデスクに手をついた彼女の迫力に、からだをすくめる。
「す、すみません」