じゃあなんでキスしたんですか?

 


――そう言って笑う桐谷社員の目には、未来を見据えた強い意志が光っていた。

ラックに並ぶ商品はもちろん大切だ。

けれどそれ以上に売り場を輝かせるのは、商品を提供する人間側の魅力にかかっている。

彼は従業員ひとりひとりの能力を認め、引き出し、体内をめぐる血液のように活性化させることで、北長塚店をひとつの命として育てあげた――




「なんなのよこれ!」 
 
モニター画面を指差し、大橋さんが頬を引きつらせる。
眉間に刻まれたマリアナ海溝ばりの溝に、背筋がぞっとする。

「社員インタビューに、あんたのわけのわからない見解なんて必要ないでしょ!」

「で、でも、桐谷さんの確認も編集長の最終チェックも入ってますし」

「校正通りゃいいって問題じゃないのよ!」
 
ばん、とデスクに手をついた彼女の迫力に、からだをすくめる。

「す、すみません」

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