じゃあなんでキスしたんですか?
「信じらんない! こんな書き方のインタビュー見たことないわよ。ルポじゃないんだっつの」
肩をそびやかすと、彼女はパソコンの電源を落として乱暴にカバンを掴んだ。
「まだあたしを社内報担当だと思ってる社員ばっかなのよ! 笑われんのはあたしなんだから!」
苛立たしげに舌打ちを残し、終業時刻を過ぎてがらんとしているオフィスを突っ切っていく。
入口のドアが勢いよく閉じられ、部屋に閉じ込められた空気が振動した。
嵐が去ったあとのように静まり返ったフロアには、人がいない。
半分以上の蛍光灯が落ちて薄暗いなか、わたしは脱力した。
今日、わたしがはじめて担当した社内報が発行された。
社内ネットを通してウェブ形式で配信されるそれは、毎月十日が発行日と決まっている。
「そんなにダメだったのかな……」
桐谷さんのインタビューをメインにした今月号は、二ページにわたって彼の言葉を載せている。
質問形式の回答の最後を、わたしが独断で書き綴った文章でしめくくっていた。
わたしなりに桐谷さんを観察したうえでの、まとめの文。
本当はすこしだけ自信があった。
彼の本質を、きちんと表現できた気がしたから。
「まだ残ってたのか」
振り返ると、入り口から森崎課長が歩いてくるところだった。